「三年後…その金額で結構です。お譲り下さい。それで…改装をお考えだと思いますが、私の希望をお聞き入れ頂けますか?
…資材は私が負担致します」
と真砂はすっぱりと言った。私は唖然とした。
「あの家の見取り図は、頭に入ってございます。メモ紙、頂けませんか」
私が製図用方眼紙と鉛筆を揃えると真砂はサラサラとフリーハンドで見取り図を書いて行った。
「この部屋は…この柱を取り除き天井裏で補強願います。床は私が一寸五分厚のけやき板を準備します。…この隅は一段カサ上げ頂き、畳み敷にして茶釜の風呂を掘って…」
真砂は淀みなく矢印を引きメモを書き込む…
私は一言も発しなかった
「セキュリティが重要ですから敷地は御影石の塀で囲みます。アモイで切り出し日本へ運びます。
これで設計士の方と打ち合わせ頂けませんか?…設計士は私の懇意の方もおりますが…失礼でなければ、ご紹介も可能です…どうかよろしくお願い致します」
「こ、この部屋は…板敷きにして…何にお使いに」
「茶道、華道など教えたいと…本場からフラメンコの教師も招く予定です…」
私は動揺を隠すために立ち上がり珈琲メーカーから注いだカップを真砂に奨めた
こうして交渉は終始、真砂のペースで進んだのだった…。
契約書は、三年後に売却譲渡すること。その間の家賃は●●円、年間●●、三年間で●●円…資材は全て真砂負担。工賃は私が負担…など細かく原稿を二人で作成した。
手付金だと言って真砂は、100万円を私に差し出した。
「…私、名前は真砂と書きますが、読みはマサゴじゃなく、『まさこ』と申します…」
領収書をバックに仕舞いながら真砂は言った。
設計士にも話が及び、真砂が懇意の設計士の名前を聞くと、私ですら知っている高名な設計士だった…
「…主人の教え子なんです。今では主人よりも有名になって…」
真砂は笑いながら言う。
一も二もなく彼に決めた
こうして四ヶ月後にリフォームが終了したのだった。
三年後に譲渡する物件であり引き渡し式は、真砂が納得している以上、私に対しては形式的なものだった…
敷地は御影石で囲まれ、門は古風な桧の皮葺きの門が建てられ、その横に違和感なくガレージに通じる門扉が並んでいる。
「門は設計士のプレゼントです。…近く、主人も帰りますのでお食事を兼ねて…社長をご招待するよう言われております…」
出迎えてくれた真砂が言った。