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母の遺言(三)

バツイチ女  2010-04-24投稿
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私は母の居ないところでは泣きつづけた…
幾つになっても私は幼児扱いだ……
嬉しいと思う。
既に父が亡くなり、今母を失おうとしている。
心細いのはこの上も無かった…

『もう…結婚はしない。一生、母さんの面倒を見るの!…今にも死ぬようなことを言わないで!…まだまだ卵焼きは…下手くそ!…教えてよ…』

母の前では気丈に言った

『そんなこと言っても…この病気は簡単には治らない…私、もう、十分楽しく生きた。絶対に延命措置なんかしないでね。…孫の顔が見たかったけど…贅沢な望みね……』

『孫は…ごめんね!父さんも反対したのに…私…さっさと結婚して、別れて戻って来たり…』

『…あとは、あなたに残した仕事があるの。家と本屋の間のスペースに焼き肉とうどん屋を兼ねたお店を建てて。…必ず成功する!』

『判った。母さん。洒落たお店にする。開店の時はお店に、デンっと座って居てね』

『暁子。…親が子供に言うことじゃないけど…あなたは結婚して居なくなって…父さんが亡くなって…私、寂しかった。
結婚しないで生きるって大変なことよ!…あなた判ってない!…私、亡くなった父さんを裏切ってきた…』

『おかしいことを言う!死んだ父さんをどう、裏切るの?…母さん』

『暁子。もし、どうしても……身体が寂しくなった時、…12個作る卵焼きを、1個だけ砂糖味にするの。その日、誰が食べるか判らない。他の11人には判らない。食べた人が…その晩、暁子を抱いてくれる。…離婚したあなたは誰も裏切ることにはならない!…ストレスを溜めることなく生きて欲しいから…』

『そ、そんな!…』

『入居者に欠員が出た時は本屋とコンビニに「入居者募集」の広告を出せばいい!…暁子が面接して、暁子が決めるのよ…私は 10年前に止めた。暁子が復活させたいなら、班長の修さんに伝えればいい…段取りは全て修さんがやってくれるから…』

『判った判った、母さん!…もういい。少し休んで。』

こうして母は医者の見立てよりも長く、四ヶ月を生きて…逝った。
二年前、母 68歳。私38歳の時だ。
母の遺言であった焼き肉うどん店を昨年、オープンさせた。
母の言った通り、これも大盛況であった。

母のトレードマークの和服に割烹着が私のユニホームになった。
こうして、業務が一段落すると…母のあの言葉が心の中で頭をもたげて来た…。

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