【若吉果茄】は深い眠りの中にいた。
天才老博士【猿木周三郎】が発明した睡眠装置によるものだった。
果茄は美しい少女だった。そう、富継と身体が入れかわるまでは。
「いくら性格が悪いとはいえ不憫よのう、こんな醜悪な姿に生まれ変わったのじゃから」
人工羊水の中で全裸の老人の姿をさらけ出している果茄に、憐れみの視線を向けながら老博士が言った。
「性格が悪いって、いったい何をしたんですか?」
老博士に寄り添うように立つ冴子。語調が以前よりも優しくなっている。
「ん? そう言えば性格が悪いって、どんな感じなんじゃ?」
老博士は怪しげな助手の一人、玲へと視線を向けた。
玲は黒いサングラスの中で目を泳がせた。性格が悪いかどうかなど調べもせず、適当に美しい女性を拉致してきたからだった。
これをキッカケに、果茄は数奇な運命をたどって行くのであった―――
相変わらず富継は、大鏡の前で美しく変身した自分の姿に見とれていた。
今日はパープル系のバルーンワンピースにベージュのボレロを羽織ったコスチュームだ。
ふと、玄関のチャイムが鳴った。出てみると、長身でボーイッシュな可愛らしい女の子が微笑んでいた。
「こらっ、学校サボってばかりいないでたまには出てこい? 」
元気な声で言ったのは、果茄の親友【長谷川ミリイ】だった。
クウォーターのミリイは母方にアイルランド系の祖父がいた。
もちろん富継はミリイの存在は知らない、この状況をのみこむのに暫しの時間が必要だった。
「何ぼーっとしてるの? 親友の顔を忘れたかぁ???」
ミリイがじゃれるように富継に絡んできた。甘酸っぱい香りに、富継は胸のトキメキを覚えた。
実際、富継が男だったら、かなりの美人に抱きつかれ卒倒している状況だ。富継とはタイプが違うが、175センチの長身からスラリと伸びた超長い脚がモデル顔負けのスタイルを醸し出していた。そしてジーンズ姿が凄く似合い、男心をくすぐる艶かしさも兼備していた。
富継は部屋から、果茄の大学の学生証を見つけ出していた。
だから思った、(大学の友達やろな)と。
「久しぶりぃ? 」
別人だとバレてはいけないという思いと、それ以上のスケベ心で、富継はミリイに抱きつき返した。
ついでに胸をモミモミする。
(女の子に生まれ変わって良かった〜? )