富継の顔を覗き込んだのは、長身でイケメンの小早川速人だった。
「果茄先輩ってメチャ面白いですね? 行動の予測がつかないなあ?? 」
(なんだあ、このモヤシみたいな男はぁ?? )
男が近づくと何故か苛立つ富継ではあったが、興奮し過ぎて喉が渇いていたからジュースの差し入れは有りがたかった。
「…ありがと? 」
速人が誰なのか知らなかったので、愛想笑いで誤魔化した。
「相変わらず速人君は果茄にゾッコンねえ? 付き合っちゃいなよ、果茄??」
茶化す、エミイ。「けどそうなると、敵が多くなるけどね? 」と付け加える。
事実、競馬サークルに女の子が多いのはイケメン速人がいたからであった。
一気にジュースを飲み干す、富継。
「プハァ? 」
ビールをイッキ飲みした時のような満足感を辺りにふり撒いた。
「思いっきりオヤジしてるよお、果茄? 」
冷たい視線のエミイ。と、その時だった。富継の辺りの景色が物凄いスピードで流れて行った?
富継の意識は何故か、前方に広がるターフへと集中した。
10レースの発走までは未だ時間がある筈だった。なのに富継の目の前を駆ける、十数頭の競走馬の姿があった。
富継の脳裡には一頭のみ、馬番?の緑の勝負服が果敢に先頭でゴール前を駆け抜ける姿が映し出される―――
富継は現実に戻った。微かな目眩を覚え、座っているにもかかわらずバランスを崩す。
(今のは… なんだあ??? )
「今のレースは? 」
富継はエミイを振り返った。
「ん? 何? どうしたん? 」
エミイは訳が解らない様子だ。
「今のレース、何番がきた? 」
「今のレースって、9レースの事? 」
「いや… 10レースの発走は未だだよね?」
「そうだけど… 大丈夫? 果茄… 」
富継は訳が分からなかった。はっきりと芦毛の馬体の馬番?が一着で入ったレースが見えた、それは確かだった。
(そう言えば、9レースは確か3枠?番の赤い帽子のがきとったよなあ… 訳がわかんね? ま、えっか… )
その時、10レースの馬場入りが始まった。?番の馬から次々と返し馬だ。
「…あ 」
富継は声を洩らした。
(あの芦毛の馬… )
富継が見つめる先に、先程1着でゴールを駆け抜けた6枠?番の馬がいた―――