富継は胸のドキドキが治まらなかった。
(確かにあの馬だあ? 芦毛の馬体に緑のメンコ。帽子と勝負服も緑。勝負服の柄も一緒だ、間違いねえ〜? ??)
「?番の馬、単勝いくらついてる? 」
誰に向かって発したか分からない富継の言葉に、速人が応えた。
「オッズですか? えーと、107倍ちょうどですね? 」
勝負師富継の血が騒いだ。
「おい、イケメン? 勝負だ、千円貸せっ?? 」
「果茄あぁ? 」
富継の豹変ぶりに卒倒するミリイ(エミイ改?)。
「イケメンじゃなくて、速人です?」
クスッと、速人が笑った。
「速人、勝負だっ? 次のレース、間違いなく?番がくる? 千円貸してくれ、万が一ハズレたらこのカラダで返すからっ?? 」
速人は笑い転げた。目が点のミリイは小さく、「もうヤメといた方がいいと思うけど… 」と呟いた。
「ほんと面白いなあ、果茄先輩は? 見てて飽きないや? はい? 」
速人は千円ではなく4万3千円を差し出した。
「ぼくのサイフの中身の全部です? せっかくだからこれで勝負しましょう? 」
「おう? 」
富継は躊躇う事なく受け取った。
「あんなのくる訳ないぞぉ? 半年間休んでて体重がプラス35キロ。鉄砲成績も過去2回共に着外。加えて前走まではほとんどダートを使ってて昇級してからは全て二桁着順。過去唯一の芝のレースもブービーとくらあ」
祐輔だ。今日は午前からずっとカタイレースが続いている。本命派故に、結構儲けていた。
「実はぼくもあの馬狙っていたんです。少なくとも3着にはくると思います? 」
フォローする速人だったが、?番の馬を狙っていたのも本当だった。
「んな訳ねえだろ? スッても帰りの電車賃貸してやんねえぞぉ? 」
「大丈夫です、果茄先輩と二人で歩いて帰りますから? 」
「おまえ、ホントはそれが目的なんだろ? 」
「それも良いとは思いますが、ホントにあの馬きますよ。良かったら理由を説明しましょうか? 」
「…いや、いい。オレ、トイレに行ってくらあ」
競馬に関して、速人は理論派だった。その実力も確かである。祐輔は理由を聞きたいのが本音だったが、部長としてのプライドが許さなかった。