「単勝一本で勝負するけどいいか? 」
「果茄先輩に任せます? 」
本当は押さえに複勝も買うのが賢明だと思いながらも速人は、富継(果茄)の心意気に賛同した。
「当たったら山分けな? 」
「はい、ラジャー(^^ゞです? 」
富継は速人を引き連れ、第10レース単勝?番を4万3千円分購入した。
「ところで、なんで果茄先輩は?番の馬がくると思ったんですか? 」
「それがな… 」
富継は速人の首に手を回し、引き寄せた。その甘いフェロモンにドキン?と胸が高鳴る速人だった。
その様子を遠目に見つめる美希の姿があった。
美希は速人に憧れ、興味のカケラもない競馬サークルに入会したのだった。
敵だと、富継を認識した瞬間だった。
「 ――という訳なんだ。オレも半信半疑なんだけどよ、なんか気になってな」速人の前では、既に地に近い喋りになっている富継だった。
「なるほど? ?番が単勝できたら予知能力という事になりますね」
「予知能力? 」
「超能力の事ですよ。未来で起こる事が事前に分かるんです? 」
「 …そんなん本当にあるんかいな?? 」
「ぼくもマンガや映画の中だけのものだと思っていましたけど、現実にあったら面白いですね? 」
「競馬で稼ぎ放題やな? 」
「それは何とも言えません。特定の条件下でしか能力が発揮できないのかも知れないし… 現に、9レースまでは全くダメだったんでしょう? 」
「オレぁ穴党だからな、さっきまでのレースはカタ過ぎらあ? 」
「ハハハッ? あっ、もしかすると他の能力もあるかも? 例えば念動力とか? 」
速人はポケットからなけなしの50円硬貨を出し、馬券売場のカウンターの上に置いた。
「果茄先輩、試しにこの50円硬貨が動くように念じてみて下さい? 」
「どんな風に? 」
「50円玉動け? って、頭の中で念じるんです」
動く筈ないのは分かっていたが、果茄との二人っきりの会話にときめく速人だった。
(動けえ、動けえ、動きやがれ? )
一生懸命に念じる富継を見て、速人はクスリと笑う。 あまり果茄と話しをする機会がなかった速人は、こんな女性だったんだと感動に似たものを覚えたのだった。
と、その時?
動いた? ――カタカタと音を立てて、50硬貨が動き出したのだった? ―――