第10レース。各馬が4コーナーをまわり、直線での攻防へ突入しようとしていた。
そして、大外から一頭だけ次元が違う末脚を繰り出してくる馬がいた。芦毛の?番――― そう、富継が単勝で勝負しているあの緑の勝負服の馬だった?
次元が違った、芦毛の馬体は並ぶ間もなく前を行く全ての馬をごぼう抜きにしてしまったのだ?
「キタああぁぁっッ??? 」
富継の絶叫と同時に、先程の予知夢と同じ場面が現実のものとなった。
あれから直前オッズで47.7倍まで下がったが、4万3千円の投資だから205万円ちょっとの払戻しになる。高額払戻しの事務所から出てきた富継と速人は、サークルのメンバーからヤンヤヤンヤの喝采を浴びた。
「今夜の飲み会は、果茄っぺと速人のオゴリだな? 」
祐輔が富継の髪をクシャクシャにしながら言った。
どうもこのクソガキ苦手だな、と思いながらも富継は「ウッス先輩、今夜は任せて下さい? ついでにワタシを誰かお持ち帰りしても良いですよ?? 」と調子を合わせた。
「あ、オレがお持ち帰りする?? 」、という本音混じりの声がいくつか飛び交う中、美希とミリイの二人だけは厳しい表情で富継を見つめていた―――
500円硬貨が宙に浮いていた。宴会芸を富継が披露していたのだ。
凄いマジックだと誰もが絶賛した。だがこれは、マジックではなく念動力という超能力だったのだ。
速人は冷や汗をかいた。
(あれだけ二人だけの秘密にしようと言ったのに… )
――50円硬貨が動いた、あの時。何かの偶然だと速人は思った。
だから、「今度は宙に浮かせて下さい 」と言ってみた。そして富継は、なんの苦もなくそれをやって退けたのだ。
信じられなかった。だが、速人自身の身体が僅かに浮いた時、現実だと受け入れるしかなかった。
「わおッ? 人も動かせるんかい?? 」
言って富継は辺りを見回した。
「よしっ、あのオッパイがデカイ娘のスカート捲ったろ?? 」
風もないのに女の子のスカートが舞いあがった。女の子は両手でスカートを押さえ、辺りをキョロキョロ見回している。
「ブッ、ククク?? あーおもろ??? 」
「果茄先輩。 いや、果茄さん? お話があります?」
真剣な眼差しの速人だった。超能力の存在が世間に知られたら大変な事になる。果茄が不幸になる? 速人は思った。