先輩がいる。
目の前に。
でも見れない、見上げられない、なんて言ったらいいかわかんない。
極度の緊張で頭がおかしくなりそうだ。
「…なに?」
久しぶりに、俺に向けられた言葉。
先輩の声。
俺は…声が出なくて、どうにもできなくて。
握りしめた手を開こうとしたけど、体が言うことを聞かなくて。
「…風見?」
名前…。
俺の、名前。
先輩の唇から出たのは俺の名前。
それだけでこんなに胸が熱くなるなんて。
視界がぼやけるなんて。
「…わっかんねえなあ…お前って…」
呆れたように(実際、絶対に呆れて)ドアにもたれて髪をぐしゃぐしゃにした先輩の気配がする。
出掛けなのに、髪型がくずれますよ、なんてつまんないことが飛び出しそうになる。
「なあ」
…。
「…なあってば!」
俺は今世紀最大の努力で顔をあげた。
先輩は
ぎょっとしたように見開いて、それから…
「それがお前の答えなんだな…」
と呟いた。
先輩は強く俺を引き寄せて俺の瞼にキスをした。
壁のない瞳に。
慣れないコンタクトをした俺の目に。
眼鏡は、もうない。
それが…確かな答え。