こんなキスは、前にしたことがある。
俺から悠に、警告のキス。
同じ味がするなあ…愛情のない冷たい味。
「ってえ!」
俺は思い切り唇を噛んでやった。男の口端に滲む赤い液体。
俺の唇にも。
舐めると鉄の味がする。
「俺にキスしちゃうなんて脅しのつもり?兄さん」
「倉田。倉田圭。いや、ふざけただけ」
違うね。
あれは宣戦布告だ。
「まあいいや。あんまり付きまとうとケーサツ呼んじゃうよ…ね、圭さん」
「…またな、嘉納アキヒトくん」
また、か。
まあいいや。どうせ退屈してんだ。
新しいゲーム始めるのも悪くないな。
それから、奴はしばしば俺の病室を訪れるようになった。
観察するような目と、相反する人懐こい笑顔。
悠の不審げな顔にも怯まないし、俺の親にも
「高校のボランティア活動で知り合いまして」
なんて嘘ついてやがる。
俺は今のところ黙ってた。これはゲームだ。
面白いとこまで引っ張らないとな?