警察も、簡単な調書しかとらなかった。
何しろ春臣は「自供」していて、思ったより軽い傷だった母親も、警察の見解に間違いがないと同意したからだ。
僕は…黙っていた。
春臣との約束だから?
怖かったから?
どれもそうかもしれない。殺したいほど憎くて仕方なかった春臣への復讐…?
それなら、なんで僕は辛いんだろ?
なんで春臣のいない、春臣の部屋に来るんだろ?
なんで真実を語らない母親が憎いんだろ…。
何で僕は…。
春臣が僕が小さかった時に言った…。
「男は僕なんていわないんだ。僕ってのは…シモベって意味なんだぜ」
何で今思い出す?
そんな些細な思い出。
どうして、春臣は僕を庇ったの?
本当に庇ったの?
家族を壊した僕への復讐を果たしたのは春臣じゃないの…?
だって。
だって残された僕はどうすればいい?
いまだって、見下ろせば汚い両手があるのに。
初めて貫かれて、悲鳴あげた部屋。
初めて春臣が僕をどれだけ憎んでいたか知った部屋。何回も抱かれて、そのうち慣れて。
警察が家に踏み込む直前、春臣が僕に口づけした時に…唇だけ動かして、なんて言ったんだろう。