「理央」
彼は軽やかに笑った。
「疲れちゃった」
僕も、涙を拭った。
「理央…クラスにいる…あの誰からも好かれる君が…本当だと僕は思う」
理央は泣きそうな顔を必死で堪えている。
「なあ、これは妄想だろ?僕の妄想だ。
なかったことだよ。
僕は何も聞かなかったし、君は何もしてない。
ただ約束してほしい」
理央は子供みたいに目を擦った。
「なあに?」
「僕、のままでいて。
それが「君」なんだ。
もう…解放しろよ。
充分だろ?
今日僕は君を殺したんだ」
「…いいのかな…」
僕は頷いた。
「うん。
君の身代わりになったのは君を愛したからだ。
愛したなら全てを捧げることを後悔はしない。
そして捧げられたことを後悔はしない…お前が言ったことだよ」
理央は考え込むように瞬いて、微かに唇を上げた。
「ありがとう」
「行けよ。
もうお互い目を覚ますころだよな。
僕も…もう…」
君を、忘れるから。
その言葉が部屋に漂って消える頃、僕はひとりだった
帰り道。
手にした鍵を紺碧の空に放りあげ、キャッチする。
別れたばかりでもう会いたいのに。
僕らは離ればなれ。