「真希?」
「嘘つき!
瀬下くんと仲良く話してるとこ、
見たもん!」
次の瞬間、真希の目が真菜を捉え、
蓮一がドアを開けたと同時に、
真希の手のひらが真菜の頬を力強く叩いた。
「!!!」
「!!?」
真菜はそのまま膝から崩れ落ちた。
蓮一は真菜の横にしゃがんだ。
「!!…蓮兄…ちがう!違う……違うの!」
「真希、お前の本当の気持ちが……、
分かんねェよ…」
「瀬下くんは……友達だから………仲良くしていたけど……違うの!……違う…」
「なら、なんで真菜を殴る」
真菜は俯いていたが、
明らかに泣いていた。
「違う…違う…!!…蓮兄なら、蓮兄は…信じてくれるよね…!?」
「真菜には信じてもらわなくていいのか?」
真希も涙をこぼし、蓮一に許しを乞った。
――優との関係に嘘はつきたくなかった。
彼の境遇に同情しなかったと言えば嘘になる。
彼が悪い人にはとても見えないし、話していて心地良かった。
今度彼の試合を見に行く約束もした。――
それなのに、恋愛感情は無い、
などとこんな話が通るはずはなかった。
そして何より真希が真菜を殴ったのは、
彼女自身気付いていない¨理由¨からだった。
真菜に『見抜かれていた』からだった。
優への微かな恋愛感情を、
『見透かされていた』からだった。
それを真希自身、
『認めたくなかった』からだった。
蓮一も優も、
真希は独占しようとしていた。
無意識に。
「真希…」
真菜が口を開いた。
「好きなんでしょ。瀬下くんが…」
「っ………!!!ぁ…
あんたっていっつもそう!!
人の事ばっかりちょっかい出して!!
何が楽しいのよ!!そうやっていっつもいっつも!!!いっつも……いっつも…。
私から……
……蓮兄を…」
真希は悔しくて堪らないという表情で、
蓮一と真菜を見た。
その後一呼吸置き、
涙を拭って、
真菜を睨みつけた。
「そうやって……ずっと……
ずっと蓮兄に甘えてなさいよ!!!」
真希は勉強道具の入った鞄と、
財布を持って、家を出て行った。
勢いよく閉まったドアの音が、
静まり返った家にいつまでも反響した。