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さよならは五分前 10

にゃんこ  2010-11-25投稿
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入りますよ、と声をかけ、靴を脱ぎあがる。
普通なら絶対しない行為。見つかれば警察沙汰。

それこそ二人が望むところだ。

海斗は無意識に、簓を自分引き寄せ、自分の背後に位置づけた。
二人の息づかいしか聞こえない…明かりは玄関を抜けた向こう側でおそらくリビングか?

海斗はそっと、扉を引いた
「…どういうことだ」

誰もいない。

だがリビングのテーブルには瓶ビールと酒の肴らしき刺身を入れた小鉢。

つきっぱなしのテレビが、明滅している。

人の気配溢れる部屋。

金気臭い味が口中に広がる…恐怖の味。
もう言い訳もなにもできない。

海斗は怖かった。

簓を振り返り、虚ろな目が時計を見つめている…10時10分。

わかっていた。

そう

止まっているんだ。

俺たちの時間が。

それとも…。

ぶるっと背中を震わせ、簓の氷のように冷たい手を握った。

「行こう」

「どこへ?」

返事を期待していなかったから、海斗はしばし簓を見据えた。

「…俺のアパート」

反論も了解もない。

二人は無言でこの薄気味の悪い光景を後にした。

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