冷たい沈黙。
一言でも発したら止まらなくなる、お互い。
二人は静まり返ったアパートを見上げ、階段を上がっていった。
鍵を差し込み、海斗が簓を招く。
「お邪魔します…」
久々に出た言葉は空を漂い虚しく響いた。
スイッチを入れると、すぐに明るくなった。
電気はつくらしい。
八畳と六畳の2DK。 白い革張りのソファに落ち着かない様子で簓が座ったのを見て、海斗は背広を脱ぎネクタイを緩めた。
「着替え適当に出すから…シャワーも出るかな…電気はついたんだし」
「今日はいいです。俺…もう…」
ネクタイをほどいて首に引っ掛けたまま、手で顔を覆った簓の横に腰をおろした
「俺だって怖い」
顔をあげた簓の目が、潤んでいた。
恥ずかしそうに、誤魔化して顔をふく。
「矢倉さんは強いですよ。こんなわけわかんない状況でも冷静だし…俺なんか怖くて…ほら」
自嘲気味に手を見せる。 白く細い指が小刻みに震えていた。
痛々しいくらいだ。
人を跳ねた動揺から、まだ醒めてはいないうちにこんな状況…無理もない。
まだ海斗のコートを着たままの肩にそっと手をかけた