頬に流れる雨と涙。
俺は何を失ったんだっけ?
手に持った傘。
まるで何かの存在に後押しされたように急に買ったこの傘。
いまは必要ないどころか、忌まわしいものにさえ見える…だが、なぜ?
目を閉じると、強い光を持った誰かの目。
どうしてそんなふうに俺を見つめるんだ?
頭が割れそうに痛い。
海斗は両腕で頭を抱えた。
吐きそうだ。
フラッシュする、ないはずの思い出。
柔らかな頬にかかる髪…涙のあと…喪失のあとの喜び…誰との?
誰との思い出…?
誰、あれは誰?
神様、教えてくれ。
顔を覆った両手の隙間に、スニーカーが見えた。
顔をあげると、少年…大学生くらいの男の子が立っていた。
二人は何も言わずに立ち尽くした。
海斗は震える指で、彼の頬に触れた。
「変わった名前だったね」
少年は海斗から傘を受け取り、アスファルトを引っ掻くように一文字を書いた。
二人は微笑んで、それから抱き合った。
さよならは出会いの五分前
出会いはさよならのあとに
二人の時計は動き始めて、空には太陽みたいな月が光を放つ。
きっと、ずっと。
ずっと。