自動販売機で飲み物を買った蹴人は、
彼女役をリルナに頼んだ公園に来ていた。
リルナはブランコに座っていた。
「……!!!」
蹴人は缶ジュースをリルナの頬にくっつけた。
「ショックで声が出るかと思ったけど、ダメか…。…………風邪……なんだろ?」
リルナの瞳が切なく潤んでいるのが分かった。
「本当は…違うのか?」
俯いたまま答えを濁すリルナに、
蹴人は立ったまま優しく語り出した。
「………親父が、藍原のこと…知ってるかもしれないって…。
どういう意味かは分からないし、
今までだって、藍原のこと…
俺も知らなかった……。
今は、それが凄く嫌なんだよ。
俺に出来ることが……無さすぎる」
リルナは静かに涙をこぼした。
「お前の声が出ないワケも、
今、泣いている本当のワケも……。
俺は知りたい」
「…………………」
静寂に包まれた公園には、次第に落陽が射し込まなくなってきていた。
不意にリルナは立っている蹴人に飛び付いた。
もし声が出たとしても、何も言えなかっただろうとリルナは思った。
「…………」
「…………」
蹴人は力強く、リルナの小さな震える体を、抱き締めた。
「……………」
「…………好きだ…」
応えることも、答えることも、
今のリルナにはできなかった。
「落ち着いたら、ウチに来てくれないか?
父親に会って欲しい。
多分、藍原に…………、
リルナにとって大切なことを、
親父が知ってる…。
それがなにか、なんで親父が知ってるのかも俺は知らない。
でも、知りたいんだ。
大切な人のことだから…。
……頼む」
リルナは力強く優しい蹴人の腕のなかで、
ずっと泣いていたかった。
しかし、もう目を背けることができない”なにか”と、向き合う時が来たのかもしれない。
「………………!」
涙を拭い、
リルナは頷いた。