リルナの瞳から零れた涙が、
二人の唇に染み込んだ。
「………………」
「……リルナ……。
お前がどんな人間だろうと、
俺には関係無いからさ。
だから、お前。
もう、意地張るなよ。
マスターへの恩返しは、
お前が普通の女として生きることなんじゃないか?」
「………そんなの…。
私にはできっこない……。
証拠はなくなっても、
沢山のお客さんが私を覚えてる…。
そんな私と一緒にいたら…きっと……。
嫌な思いするから…」
蹴人はリルナの頭を撫でた。
「そんなもんなら、
いくらでもしてやるさ。
お前と…リルナと一緒にいられるなら」
「……なんで……。
…私にはなにも無いよ………?
返せるものも…出来ることも…」
「………見返りが欲しいから…お前のそばにいるわけじゃない」
「…………分からないよ…。
私は…今まで男の人は……何か目的があって…女の人を選ぶんだって…思ってて…。
その人の体とか…言葉とか…。
単純にストレスの捌け口だったりもしたよ…?
そばにいるだけなんて…
分からないよ………」
リルナは蹴人の指を握った。
「……………」
「ね、私は………私には何ができる?
何があるの…」
蹴人はたどたどしく握られたリルナの手を、
思い切り握り返した。
「心だ」
「…こころ…?」
「お前が、今まで生きてこれたのは、
その心があったからだ。
いろんな目に遭ってきたって、
リルナが休んでた時にあの二人から聞いたよ。
今まで…大変だったんだろ?
でも、お前は誰にも何もしないで、
全部、自分の中だけで解決してきた。
お前にはそんなに強い心があるじゃないか」
リルナは首を横に振った。
「そんなの…!!
そんなの……私は…逃げていただけだよ…今までだって…。
今だって……マスターを犠牲にして…」
「……そうやって、俺からも逃げちまうのか…?」
「え…」