髪の毛から雨の滴が落ちるのも気にせず、
わたしは沈黙を守っていた。
男子生徒とわたしは、似ているのではない。
ほとんど『同じ』だった。
姿形がではなくて、
恐らくこの学校に於ける境遇が…。
きっと、苛立つわたしに気を遣って、
なにも訊かないでいてくれているのだろう。
タオルを頭に被ったまま、うなだれている。
「………訊かないんだ?わたしがあんなところに倒れていた理由」
男子生徒は驚いたようにこちらを向いた。
「あっ…。うん、気にはなったけど、どうやって訊いたらいいか分からなくて」
同い年には見えない。
体操着の胸の部分に、『1』と書いてあるから一年生であることは確かだ。
苗字は、濡れていたり、漢字が複雑なため、読み取れない。
「同じクラスの男子たちに、いたずらされてたの……。詳しくは話したくない。
それで……もう何回もこんな目にあってて…。
もう……家にも、教室にも戻りたくなくなっちゃって……」
話していて情けなくなってきた。
わたしがこんな事を、この同級生に打ち明けたところで、何が変わるわけでもない。
下手に正義感の強い子だったら、巻き込まれ兼ねない。
そんな淡い期待を抱きたくなるくらい、
彼の眼差しは真剣に、真っ直ぐわたしを捉えていた。
「あのまま……朝まで誰にも見つからなかったら………もう……死」
「死んじゃうとこだったじゃないか!」
「……………え…」
「あのまま朝までいたら、死んじゃうとこだった!!
要するにその男子たちが、キミを殺しかけていたとこだったのか!」
「………ううん。そんなことはされてない……。されてないよ…」
「じゃあなんでキミはあそこに倒れたままだったの。
そいつらから、キミが動かなくなるまで、酷いことされてたんだろ!」
「…!違うっ…!そういうんじゃ…!
体は動くの…!体はっ……!ぅうッ………」
「体が…体が動いても、
キミの心が動かなくなるまで、
酷いことされてたんだろ!!」
安っぽい、『心』という言葉を、
わたしはこの時、
生まれて初めて、
ちゃんと聴いた気がした。