―――可愛くないコねぇ…。
どうしてあんなのウチに……。
(うるさい…)
―――仕方がないだろう。
兄さんがああなってしまえば…。
(……父さん、父さん…!)
コンコン
丁寧にノックをする音で、どうにか耳を盗み聞きから離せた。
ベッドからは起き上がらず、
うっすらと碧い瞳をドアに向け、掠れた返事をした。
恐る恐るこの部屋の以前の住人が入ってきた。
「ティアちゃん、今大丈夫?」
「うん、少し眠りかけてた…」
碧い瞳をした少女はティアという名で呼ばれ、少し表情を和らげた。
苗字で呼ばれて、よそよそしくされるとばかり思っていたからだ。
「倫子(ノリコ)、私に部屋くれて、有難うね。ごめん、こんなに良い部屋」
「ううん、仕方ないよ!ティアちゃんこそ大丈夫?その…」
ティアは必死に笑顔を繕ったが、泣き腫らした顔が痛々しかった。
「お母さんが見つかれば、お父さんも帰ってくるんでしょ?」
「うん、書き置きにはそう書いてあった。イギリスだもんなぁ。私には縁がないや…」
そう言ってベッドに投げ出した長い髪は、眩しい金だった。
倫子はきらきらした瞳で彼女を見ていた。