――夏休み……
夏の暑さを避けるため、最も暑い期間に授業などを休むこと。
らしいが、俺には無縁のことらしかった。
高校二年の夏。
春に比べて明らかに、周りの男女が仲睦まじくし始め、夏休みともなれば……○○○しているこの時期に、俺は数学教師と二人きり、教室で睨み合いだ。――
「先生ェ…せ、せめて扇風機か何か、点けませんかァ……?」
補習を受けている様には見えない、だらけきった姿勢で、守岩恭太(モリイワ キョウタ)は提案した。
「暑さと、今のあなたの補習プリントの問題の解答率と、因果関係があるならば提案を受け入れます」
「あ…ありますよ…!暑くて、暑くて、本当〜に、暑くて、頭が回りません!」
「ならば扇風機を持ってきた然る後には、この三時間あまり、一問も解けていなかった補習プリントの問題が、全て解けると?」
こう返された恭太に、言い返す言葉は無かった。
恭太はこの数学教師が苦手だった。
水下雪美(ミズシタ ユキミ)。
涼しそうな名前だが、涼しいどころか冷たく、氷のように冷ややかな性格の教師だと、生徒の間では評判だった。
数学の授業は毎回宿題が出る。
赤点者には容赦のない補習、追加課題。
世間話には一切耳を貸さず、
笑顔を見た者はいない。
しかし、その容姿はすらっとした長く白い脚に、小振りな尻、女子生徒が羨むくびれに、豊かな乳房。
腰まである長い黒髪に、それと同じ色の漆黒の瞳。きりっとした目つきは、近寄りがたい雰囲気を、一層際立たせていた。
「後はあなただけですよ、その補習プリント、解答し終えていないのは」
そう言って雪美は恭太の隣の席に、静かに腰をおろした。
一瞬、シャンプーの香りが恭太の鼻腔をくすぐった。