「よォ」
「!ぅわぁあ!!」
翌朝花子が目覚めると、
貴斗は目の前で覗き込んでいた。
「?……!…な、何ですか…!?」
「雨、降ってんぞ、どんより曇り空でな」
貴斗はくいっと親指で窓を指した。
「は…い…
…知ってましたよ…」
「あと二日だな」
「まぁ…太陽がなければ儀式はできませんからね」
貴斗は舌打ちして、窓際の椅子に乱暴に腰掛けた。
花子はコーヒーメーカーの様なものから、透明な液体を、透明なカップに注いだ。
「はい…」
恐る恐る花子はそれを貴斗に差し出した。
「…?なんだこれ」
「マウリっていう、天界の樹に成る木の実から抽出した飲み物です。
目が覚めて頭が回りますよ」
「てめ…舐めてんのか!!
………………
……美味い」
「……。
…あなたは…ずっとそうやって、
人を脅すような口調や態度をとってきたんですか…?」
「……ッ」
「貴斗さん…」
「花子、昨日言ったよな。あの世にきてまでつまんねーモン見せんじゃねーよって。あの世にきてまで説教される筋合いなんざねーよ」
「………私は、やっぱり…あなたを殺して良かったのかもしれません」
貴斗は初めて目を見開き、
花子に掴みかかった。
花子は初めて貴斗に動揺せず、
彼の眼差しを見つめ返した。
「遠い未来は私にも分かりませんが、
あなたはそのままなら、いつかきっと…
…誰かに憎まれ、恨まれて、殺される運命になっていたでしょう」
「ハッ…!じゃあ、お誂え向きじゃねェか!!
誰かに殺されるくらいなら、
一気に事故で死んだ方がよっぽど…」
花子は室内に響くくらい強く音をたてて、貴斗をひっぱたいた。
「いい加減にしなさい……!」
「…ッ」
「あなたは死んだんですよ!?
全然悲しくないんですか!?
遺してきた誰かに申し訳ないとか…
…そういう人間らしいこと…
…少しも思わないんですか?」
それだけ言うと、花子は今度は貴斗を抱き締めずにはいられなかった。
彼が何の抵抗もせず、虚ろな表情で、静かに涙を流し始めたからだ。
――ああ……。
思わないんじゃない、
思えないんだ。
『そう』素直に思える人が、
彼にはいなかった…。
いなかったから…悲しくないんだ…
悲しめない……そんなの…一番哀しい…――
「貴斗さん…。
あなたを地獄には行かせませんから…!!」
「……………っせェな………」
抱き合う二人のすぐ向こう、
窓の外の雨は勢いを増すばかりだった。