「ばぁーーーか!!」
「いなくなっちゃえっ」
クラスメイトのそんな罵声が聞こえた瞬間。
ーーザバァァッ
『っ!!』
トイレの個室にいた里沙めがけて大量の水が降り注いだ。
「ごめーん♪手がすべったみたーいっ」
「じゃ、またあしたねーっ」
クスクスと邪気のある笑いを残して犯人は去っていく。
『っ』
夏とはいえ、人気のない部活棟の地下トイレは冷え込む。ましてや、冷水を頭からかけられ、全身水浸しにされた。
制服が水をすって里沙の体をつつむ。
『…っ』
里沙の目尻に涙がうかんだ。
その時。
<おんなじ人間同士なのにひどいことするのねぇ>
まだ幼い、甘えを含んだ声が里沙にかけられた。
『え…??』
勢いよく顔をあげ、辺りを見回すもそこに人影はない。
<ふふっ>
『だ…だれ?だれかいるんですか…?』
震える声でその声に呼び掛ける。
が、ひとの気配はしない。
<ここよ>
閉まったドア越しに外の様子をうかがっていた里沙は、ギクリとする。
今、耳元で、声がした。
ここは、滅多にひとの来ないトイレで。
放課後とあればなおさら人は来ない。
ー先程のように例外はあるけれど。
当然のことながら、個室に入っているのは里沙ひとりのはず。
<可愛いわね>
ふぅ、と耳元に吐息がかけられた。
『……あ…』
ガクガクと震えながら里沙はゆっくりと振り向いた。
そこには、黒髪でおかっぱの少女が存在していた。
『……え……』
里沙の目が見開かれる。
<こんにちは>
年のころは小学生くらいだろうか。
無邪気な笑顔だけを見れば、かわいらしい女の子。
ただ、そのからだは重力に反して
浮かんでいた。