彬が気を失っていたのはほんの少しの時間だった。
早すぎる鼓動が少し落ち着いてきた頃、彬は目を開けた。
「あ…れ?」
「大丈夫か?」
「…もしかして俺、意識飛んでた…?」
「悪い。無理させたな」
「んーん。だいじょーぶ」
そう言って彬は上体を起こすが、恐らく身体中が悲鳴を上げているのだろう。
「ぅ…」と、僅かに呻き声を洩らして顔を顰めた。
「ホラ、やっぱ辛いんじゃん」
「大丈夫だって」
「気絶してた奴が何を言う」
「それは…」
そこで一旦言葉を区切った彬は、俺の傍に擦り寄って来て至近距離で口を開いた。
「佑兄のが気持ち良過ぎたからだろ?」
小悪魔再来。
「お前なー。誘うな!」
「誘ってないよ?」
「襲うぞ」
「きゃー、ケダモノー!」
そんなバカな事を言ってじゃれ合いながら夜は更けてゆく。
離れたくはないが、そうも言っていられない。
風呂に入ってから、俺はまた親にバレないように自分の部屋に戻った。
―――朝
いつもの目覚ましでも母親の声でもなく、俺は息苦しさに目を覚ました。
目を開けると目の前には彬の伏せられた長いまつ…げ。
「んんーっ!んんっ!」
口を唇で塞ぐまでは良い。
寧ろ大歓迎だ。
だが、鼻を指で抓むのは止めてくれ。
人工呼吸でもするかのように、鼻も口も塞がれて酸素が限界だった。
彬の肩を叩いてギブアップの意を伝える。
「ぷはっ!…彬!」
「おはよ。佑兄」
「お前なー、起こすんならもーちょい色気のある起こし方しろよ!」
「えー?そんな起こし方したら、違うトコも起きちゃうんじゃない?」
「………」
…ごもっとも。
何も言えない自分が情けない。
それでも彬の手を掴んで引き寄せる。
「じゃあアッチは起こさないから、もう一回目覚めの…」
―――キスをして。
言う前に彬に唇を塞がれていた。
幸せな朝のひととき。
こんな時間がいつまでも続けば良いのに…。
「佑樹!早く起きなさい!遅れるわよ!」
そんな俺のささやかな夢は、ほんの5秒で母親の声によって吹き飛ばされていった。
「彬」
「ん?」
「お前って結構タフだな」
「若いですから」
「あ、そ」
卒業したら絶対に一人暮らしをしよう。
誰にも邪魔されず、お前と過ごせる時間を作ろう。
そして、ゆくゆくは二人で一緒に…。
――END