母の愛と温もりをほとんど憶えていない沙弥華。そのためであろうか、彼女は非常に内気な性格で、いつも僕の背中に隠れていた。
僕は一人っ子であるがために、物心付いた頃には「自分の部屋」があった。しかしある意味では、半分「沙弥華の部屋」でもあり、僕達はいつも「二人の空間」にいた。
幼い頃のそんな二人の遊びは、いつも決まって「お医者さんごっこ」だった。常に、僕はお医者さん役で沙弥華は患者さん役。
今思うと、沙弥華にとって病院という空間だけが、唯一母の記憶がある場所だったからかも知れない。だが、純粋で無邪気な幼い心に、そんな推察をする能力はなかった。
おそらく僕が6歳・沙弥華が5歳の時だった。例の如く、「お医者さんごっこ」をしていたとき…。純粋な好奇心から始まった「行為」は、二人の肉体関係の始まりでもあった。