電車がちょうど駅に着き、その人は私をホームのベンチに座らせてくれた。
「どうぞ」
暖かいココアが手渡される。
「…ありがとう、ございます…」
声が震えて、上手く発音できない。
私がココアを飲み終えるのを待って、彼が話しかけてきた。
「もうちょっと早く気付くべきでしたね。すみませんでした」
「いえ、助かりました…私、もうだめかと…」
顔を上げて、初めて彼の顔を見る。
視線が合わさった時、私は息をのんだ。
向こうも同じことを思っているのだろう。
目を見開いて、信じられないという表情をしている。
過去に見慣れた顔が、そこにあった。
「…武井」
五年前に別れた、あいつだった。