「おかしいわねー。灯りは点いてるんだけどー」
お母さんは相変わらず延ばし口調で耳障りだ。
どうやら呼んでも出てこないらしい。
「ケータイは?お母さんの友だちでしょ?」
「それがねー。今はちょっと仕事でいないらしくて、代わりに息子さんがいるらしいのー」
こういうテキトーな母親の友だちもまた、テキトーなんだなと思った。
離婚の原因はこちらにもあったのかもしれない。
その時、ガタガタと戸が開いて私とお姉ちゃんは驚いた。
まったくこの土地、この家には似合わない、都会にいた若々しい格好の男性が出てきた。
ちょっと年上に見えなくもない。
「えっと、悦子(エツコ)さん?」
どうやらお母さんの名前しか聞かされていないらしい。
まだ私たちにすら気づいていない。
「ごめんなさいねーいきなり。私たち今日からご厄介になる新堂(シンドウ)と申しますー。あ、娘たちです」
慌ててお姉ちゃんが私を前に寄越す。
なに照れてるのと突っ込む間もなく頭をぐいっと下げさせられ、私は腹立たしかった。
「新堂瑞穂です!こっちは妹の雪帆。双子です!」
「よ、よろしくお願いします…」
私はしぶしぶ挨拶をした。
顔を上げると彼はにっこり笑っていた。
(なにこの営業スマイル…)
私は出会って一分で彼に嫌悪感を抱いた。
お母さんはテキトー。
お姉ちゃんは頼りにはなるけど、ほとんど口ばっか。
二人は早々に案内された部屋で眠ってしまった。
私は喉が渇いたので、台所に降りて水をもらうことにした。
「…おいしい」
何故か水道水がおいしく感じてしまうのだから田舎は恐ろしい。
「山からひいてる水だから」
突然声をかけられた。
私はグラスを取りこぼしそうになった。
「ん〜〜〜っと。雪帆ちゃん?」
「は…はひ!」
声が裏返る。無理もない。
真っ暗な台所に出会ったばかりの男と二人きり。
昨日まで中学生の子供には多少、恐怖すら覚える。