詩織、どうしちゃったの…?
牧瀬葵(あおい)は、親友の豹変ぶりに驚きを隠せない。
夏休みも終わった新学期に姿を見せた詩織は、何かが確実に変わっていた
(おかしいよ…)
誰よりも清純で、男子には憧れの存在で…まさに「高嶺の花」だった詩織の、身に纏うオーラが完全に変わってしまっていたのだ。
夏休み前の詩織が汚れない百合なら、今の詩織は匂い立つ洋蘭だ。
眩しいくらいの色気が、制服から滲み出ていて…その影響か、担任までも生唾を飲んでいたように思える。
男子などは見ているだけで興奮してくるようす。
詩織と葵は昔から男子たちの間では憧れの存在だったが、いまや彼らの視線は詩織にのみ注がれているようだ。
葵にとってそれはどうでもいいのだが。
そんな彼らを艶っぽい瞳であしらい、ふっくらした唇を舐める彼女は、女の葵が見てもドキドキしてしまうのだ。
学校の帰り道、葵は思い切って聞いてみようと心に誓っていた。
すると、まるで見透かしたように詩織が見つめている…。
「葵、変よ…何見てるの…?」
柔らかい声音さえ、前とは違う。
変なのは詩織よ、と葵は言葉を飲み込んだ。
「う、ううん。…あの…あのさ、詩織、彼氏でも出来た?」
一瞬、詩織は目を丸くして、それからクスッと笑った。
「そんなのいらないわ…葵ったら、どうしてそんなこと思うの」
「だって詩織なんだか前とは違うんだもん…」
戸惑う葵の手にそっと詩織の冷たい手が被さる。
「…どう違うの?」
葵は身体の奥から、瞳の底から溢れるような色気に圧倒されながら見つめ返した。
ドギマギしながら、首を振る。
「お、大人っぽくなったっていうか…なんか、綺麗すぎて怖いって感じで…」
すると詩織は意味不明な言葉を歌うように呟いた
「大丈夫。親友の葵だけは特別に「仲間」にしてあげるから」
「…?」
ホームに降り立った詩織は真っすぐ前を見つめて微笑みを浮かべる。
これ以上、追求出来ないまま、二人の乗る電車は到着してしまった…。