早朝、京都駅に着いた。
まだ人気の疎らな駅前を歩く。
凝った意匠の駅ビルには、ちょっと圧倒されたけど、
街はそれほど都会っぽくない。
とりあえず、駅前のマクドナルドに入って、朝ごはん。
客席を回っているお姉さんに、あたしは訊ねた。
「どこかに安いお宿はないですか」
って。
中学生一人じゃ、泊めてくれないよ。
保護者の方に、予約していただいたら?
お姉さんは、言った。
ホテルがダメなら、当分はネットカフェか、マンガ喫茶暮らししかない。
お金はたっぷりある。
そのうち、どこかいい所が見つかるだろう。
あたしは、マクドナルドを出て、
ママからよく聞かされていた、
三十三間堂や、清水寺を巡ることにした。
それにしても、暑い。
話には聞いたことがあるけど、これほどとは…。
夕方。
あたしは、ふらふらになりながら、四条河原町にいた。
この辺りは、有名な祇園や先斗町に程近い、京都唯一の繁華街。
あたしはすぐに、
24時間営業のマンガ喫茶を見付けた。
だけど、足が竦む。
故郷の繁華街では、
どこの店に入るのも平気だったけど、
初めての街では、なかなか入っていけない。
断られたら、どうしよう…。
警察に通報されても、困る…。
あたしは、困り果てて、
鴨川に掛かる四条大橋を何度も往復した。
それにも疲れて
橋の上から川面に映るネオンを眺めていると、
「ハイ、どうぞ」
と、ティッシュを渡された。
顔をあげると、茶髪の軽薄そうなお兄さんが、笑いかけてきた。
「どうしたん?鴨川じゃ、暑うても泳がれへんよ」
「いえ、大丈夫です」
あたしが立ち去ろうとすると、お兄さんが言った。
「あんた、家出してきたんやろ?泊まるとこ、ないんやったら、相談にのるで。
オレ、八時までここでバイトやから、どうしょうもなかったら、またおいで」
あたしの大嫌いなタイプの男。
なのに、心の中では、ホッとしてる…。
すぐに行くのもシャクだ。
あたしは繁華街を一巡して、再び四条大橋に向かった。
「やっぱり来たな。思た通りやな」
あたしは、コクンと頷いた。