あたしが、シャワーを終えて戻ると、廊下は綺麗に掃除されていた。
「達夫クン…。ごめんね」
あたしが謝る。
「ええって。オレもシャワー浴びて来るわ。千絵は先に寝とき」
あたしはベッドに入って考える。
まさか、そんなこと…。
パパと、二年間関係を続けてきて、一度もそんな兆候はなかった。
なのに、どうして今頃…。
気が付くと、達夫が部屋に戻って来ていた。
ベッドに腰を下ろして、あたしをふりむかせた。
「千絵…」
なあに?
あたしは目で答える。
「あのなぁ…。オレ、父親になってもええよ」
何言ってるんだろう、この人…。
「はあ?意味、わかんないよ」
あたしは答えた。
「お前、赤ん坊いるんやろ?そやから、父親になっても…」
「バカ言わないでよ!妊娠なんてしてないよ!」
あたしは達夫に掴み掛かった。
「妊娠なんかしてないよ。赤ちゃんなんて、いないよぅ!」
達夫はあたしを抱き寄せた。
「千絵…。ちょっと落ち着け」
あたしは、達夫の胸で泣いた。
声を上げて、子供の頃のように。
あたしが泣き止むのを待って、達夫が話し始めた。
「間違いやったら、それでもええ。とにかく、聞いてくれ。
オレ、高校時代に付き合うてた彼女、妊娠さしてな…。
結婚するつもりやったけど、親に許して貰えんで…。
中絶させてしもた…。
マジで好きな女やったから、
辛うて、苦しいて…。
そやから、もしお前が妊娠しとるんやったら…」
「父親になるって?
アハッ!バカみたい。第一、達夫クンの子供じゃないのに…。
昨日、出会ったばかりなのよ。あたしたち」
「かまへん。おれはお前のこと…」
「やめてよ!あたし、あんたなんかイヤ!
もう、ほっといて!」
達夫は、黙ってリビングに行った。
達夫の気持ちは、ありがたかった。
もしこの子が、ほかの人の子供なら、
達夫の気持ちに甘えたかも知れない。
でも、この子は、絶対に産んではならない子…。
パパとの、子供…。
堕ろすしか……、
ないの…。