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それでも僕は 11

ねこ  2009-09-23投稿
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「鈴のこと、知りたい」

先輩にそう言われて、僕は戸惑った。

「話すことがない…僕は平凡だから」

先輩の長い指がそっと触れて僕の頭を自分の肩へ引き寄せる。

「平凡な奴なんていないよ。お前には、お前の物語があるだろ」

それはね、先輩と出逢ってから生まれたんだ。

「僕は…先輩と出逢うまで、人と関わるのが怖かった。
一人でいいって本気で思ってた。
先輩が、僕を見ていたなんて知らなかったから…びっくりした」

クスッと笑って、先輩を見つめたら思いの外、真剣に見つめ返された。

痛いよ。
そんな目で見ないで。

僕は先輩から目を逸らして、話はじめた。
でないと変なこと言っちゃいそうだから。

「僕の両親は生きてるけど喧嘩ばっかりで…あんな風になるなら、なぜ一緒になったの?っていつも思ってた。
一人だったら、傷つかないし、喧嘩もない。

…関わり方がわからなかった。
そのままでもいいって、言ってくれる人なんていないってわかってたし」

素直に言葉が紡がれて、ポロポロ落ちてくる。

先輩といるとそうなんだ

古い皮が剥がれて、辛かった何かが「過去」に変わっていく。

誰かに話すと自分のなかで澱んだものが流されていく…。

先輩もそうならいい。
僕のいる価値は、それだけで充分だもの。

「鈴」

「なに?」



「そのままでいいよ」



…。

「そうゆうこと、言っちゃうとこが…卑怯」


先輩は笑った。

それから、もう一度言った。


「鈴はそのままがいい」



…馬鹿…。

先輩は残酷だよ。

優しいから残酷。

僕は笑った。
だって泣いたらこの関係…あやふやなバランスが壊れそうで。


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