「昨日さ」
吹きつける風に飛ばされないくらいの声で、先輩は話始めた。
もう!
教室で話せばいいのに!
「ねえ、先輩ってば…」
「昨日、ユウキと話したんだ」
木崎先輩と?
「自分の気持ちを確かめたくてさ。
色んなことわかった。
俺はやっぱり…」
嫌だ、聞きたくない。
僕の塞ごうとした両手を先輩は強く抑えた。
「聞いて、鈴」
…。
「やっぱり、ユウキが好きだった」
…。
わかってるよ…。
「鈴、「だった」んだ。ユウキは…過去だ」
…え?
「ユウキの天然で見てて面白いとこが可愛いと思った。俺にはない明るさや、正直なとこが眩しかった。
でもさ…今はもう、痛くない。あいつがリイチと幸せそうにしていても、痛くないんだ」
「…良かった…ですね」
じゃあ、先輩のさっきの笑顔は本物だったんだ。
リイチ先輩も知っていたんだ。
「…良かった。って、お前それだけ?」
笑う先輩に、どうしていいかわかんない僕。
「それだけって…どういう…」
先輩は、これ見よがしに溜め息をついて座り込んだ。
「…知らなかった。
本気で惚れてる相手に告白すんのって、めちゃくちゃ緊張すんのな」
…いま、なんて…。
先輩は立ち上がって、僕の前に立って、深呼吸した…綺麗な目は優しい輝きで満たされてる。
「鈴、好きだ」
ホントに?
先輩、それ、本当?
言葉が…でない、どうしよう、言葉が…。
先輩が、慌て始める。
「え、ちょっと…鈴、返事は?」
だって、声でないんだ。
頭も真っ白で…。
いよいよ、先輩が困った顔をする。
「鈴?大丈夫か、なあ」
大丈夫、って言おうとしたら、頬が温かくなった
涙。
声の代わりに涙が。
変なの…悲しくなんてないのに…。
ずっと、ずっと、ずっと我慢していたのに。
先輩がふわっと僕を包んだ。