「澄越。ごめん…。」
「倉真くん、私には嘘吐かないで。」
「先生の家にいる…。」
三春は僅かに間を置き、電話を切った。
倉真はしばらく罪悪感と闘った。そしてとにかくもう一人、律子に連絡をとらなければと気を取り直した。
美月のカバンの中にあったクラス名簿を拝借し、律子の携帯番号を調べた。
呼び出し音がしばらく鳴り、美月の車の中で聞いたよりもか細い声が返ってきた。
「百合原くん…?どうして私の携帯番号を…。」
「澄越から連絡あってさ。どうした?何か用だったか?」
「何でもないの。大した用ではなかったから。気にしないで。」
三春の言う通り、沈んだ暗い声だった。
「新島。今日、あの時間に家帰ったらまずかったんじゃなかったのか?泣いてたろ。」
「……。私なんか、見てくれてたんだ。」
「どうした?」
倉真の問いに、律子は黙っていた。
「本当になんでもないの。」
「新島。隠すなよ。俺にだけ教えてくれ。」
「百合原くん、優しいね。………私、私、あなたの…きゃっ!!」
突然、律子の短い悲鳴と共に電話が切れた。
倉真はいよいよただ事ではないと理解した。