少し時間を遡る―――
老博士と助手の冴子はモニターを見ていた。
丁度、広治が赤・黄・青の座薬を封筒から出している場面だった。
「あの爺さん、どスケベじゃから、青で充分じゃろ 」
爺さんとは勿論、女の子に変身した富継の事である。
座薬は老博士が発明した、おそらくは世界でも他を寄せ付けないほど強力な媚薬であった。赤⇒黄⇒青の順番で媚薬効果が高く、赤は青の三倍もの威力があるとの事だった。
更には、避妊・感染症防止も兼備していた。
「じゃが、媚薬効果が一番低い青色でも凄いんじゃ! 例えば冴ちゃんが使ったとしても自分から“犯してェ〜 お願い”って叫ぶようになるんじゃ?」
「私はなりません?? 」
ケッケッケと、厭らしく笑う老博士を冴子は睨みつけた。
「冴ちゃんみたいにムッツリしている人間ほど、心の奥底にはとてつもない欲望を隠しもってるものなんじゃ。断言できる! 冴ちゃんは間違いなく淫乱女に変身するとな!! 」
挑発。それが老博士の目的だった。
「私も断言できます。私はSEXなんて全く興味がありません。故に、それに伴う欲望なるものは発生致しません! 」
冴子は処女ではなかった。一度だけではあるが経験があった。
ただ、そのたった一度の経験の為に、男性に対しても恋愛に対しても失望しきっいた。
初恋だった。好きで好きでたまらなかった。だから自分の全てを捧げた。だが、相手の男は冴子の身体だけが目的だった。少なくとも、冴子はそう感じた。
17歳のあの日。好きだッた男に言われた。
「冴子って不感症なんだな、ぜんぜん濡れてなかったよな」と。
それは冴子のせいではなかった。冴子は精一杯の気持ちを捧げたのに、相手の男が未熟なだけだったのだ。 …全てにおいて。
処女を捧げた3日後に再び誘われた。未だ痛くて痛くて、堪らないのに?
そして、冴子の初恋が終わった。
「そこまで言うんじゃったら、冴ちゃんも薬を使ってみたらどうじゃ? もっとも、淫乱になっても責任はもてんがのう。ヒヒヒヒっ」、わざと厭らしく笑う老博士だった。
「結構です! 」
「乱れる自分が怖いんかのぅ? 」
「そんな事はありません。あまり意味を感じないので」
「たかが媚薬なのにのぅ… ムキになるとは冴ちゃんらしくないぞえ。よっぽど自信がないのかのぉ? カッカッカッ」